実は囲碁から生まれた日本語|「駄目」「布石」「定石」の意外な語源
「駄目」って、もともと囲碁の言葉?
カメちゃん
先生、このケーキ食べてもいい?
ツル先生
駄目です。
カメちゃん
即答……。
ツル先生
ところでカメちゃん、「駄目」という言葉が囲碁から来ていることは知っていますか?
カメちゃん
えっ。「ダメ!」の駄目?
ツル先生
そうです。実は日本語には、囲碁から生まれて、日常語として定着した言葉がたくさんあるんですよ。
カメちゃん
囲碁やったことないのに、囲碁の言葉を使ってたのか……。
今回は、私たちが普段何気なく使っている「囲碁由来の日本語」を見ていきましょう。
駄目(だめ)
ツル先生
まずは「駄目」です。
現在の日本語では、
「よくない」「できない」「役に立たない」
などの意味で使われます。
ここに入っては駄目です。
何度やっても駄目だった。
しかし、もともとの「駄目」は囲碁の言葉です。
囲碁では、対局の終盤にどちらの陣地にもならない場所が残ることがあります。
このような場所を「駄目」と呼びます。

カメちゃん
つまり「置いても得にならない場所」?
ツル先生
そうですね。そこから「役に立たない」「効果がない」といった意味で、一般にも使われるようになりました。
カメちゃん
駄目って、最初から「禁止!」って意味じゃなかったんだ。
布石(ふせき)
「布石」も、現在では囲碁以外でよく使われます。
海外進出への布石を打つ。
将来の独立に向けて布石を打つ。
この場合の「布石」は、
将来のために、あらかじめ準備しておくこと
という意味です。
カメちゃん
「未来のための準備」みたいな感じ?
ツル先生
そうです。でも囲碁では、もっと文字どおりの意味なんですよ。
囲碁の「布石」は、対局の序盤に、盤面全体を見ながら石を配置していくことをいいます。
すぐに利益を得るためだけではなく、後の展開を考えて石を置いていくわけです。
カメちゃん
だから「将来のために今から手を打つ」という意味になったのか。
ツル先生
そのとおりです。
定石(じょうせき)
カメちゃん
「定石」も聞いたことある!「これが成功の定石だ」みたいな。
ツル先生
これも囲碁で使われる言葉です。
囲碁の「定石」は、局所的な攻防で、長い経験の積み重ねによって双方にとって妥当とされている打ち方のことです。
そこから一般の日本語でも、
物事を行うときの、標準的・基本的なやり方
という意味で使われるようになりました。
これは交渉の定石だ。
序盤は守りを固めるのが定石だ。
カメちゃん
「困ったらこれをやっておけば絶対正解」ってこと?
ツル先生
必ずしも「絶対の正解」という意味ではありません。「一般的に有力とされているやり方」と考えたほうが近いですね。
一目置く(いちもくおく)
「一目置く」は、
相手の能力や実力を認めて敬意を払う
という意味で使われます。
彼の技術力には一目置いている。
カメちゃん
これは「一目見る」と関係ある?
ツル先生
実は、この「目」は「見る」という意味ではありません。囲碁の「目(もく)」です。
囲碁では、実力差がある場合、弱い側があらかじめ盤上に石を置いてから対局する方法があります。
「一目置く」という表現は、こうした相手との力量差を認めることから、現在の意味につながったとされます。
カメちゃん
ずっと「すごいから一回じっくり見る」みたいな意味だと思ってた……。
捨て石(すていし)
「捨て石」も囲碁で使われる言葉です。
囲碁では、すべての石を助けることが最善とは限りません。
一部の石をあえて相手に取らせることで、盤面全体ではより大きな利益を得られることがあります。
このような石を「捨て石」といいます。
そこから一般にも、
大きな目的を達成するために、あえて犠牲にするもの
という意味で使われます。
カメちゃん
かわいそうな石……。
ツル先生
一つの石だけを見るのではなく、盤面全体を見るわけですね。
カメちゃん
囲碁、急に人生みたいなこと言い始めたな。
死活(しかつ)
「死活問題」という言葉があります。
原材料価格の上昇は、小さな会社にとって死活問題だ。
「死活」は文字どおり「死ぬか、生きるか」ということです。
囲碁では、石の集まりが相手に取られずに生きられるのか、それとも取られてしまうのかを考える問題を「死活」といいます。
カメちゃん
これはかなり物騒な名前だね。
ツル先生
囲碁では石について「生きる」「死ぬ」という表現を普通に使います。
手抜き(てぬき)
現在の「手抜き」は、
必要な作業を省いて、いい加減にすること
という意味で使われることが多い言葉です。
手抜き工事
今日は手抜き料理にする。
そのため、少し悪いイメージがあります。
ところが囲碁における「手抜き」は、必ずしも悪いことではありません。
相手が打った場所にすぐ応じず、別の場所に打つことをいいます。
カメちゃん
無視するってこと?
ツル先生
場合によってはそう見えますね。でも、盤面全体を考えて「あえて相手に応じない」という立派な判断になることもあります。
カメちゃん
「手抜きするな!」とはだいぶ印象が違うなあ。
囲碁を知らなくても、囲碁の言葉を使っている
カメちゃん
こうして見ると、囲碁をやったことがなくても囲碁の言葉をかなり使ってるんだね。
ツル先生
そうなんです。言葉は元の世界を飛び出して、意味を広げながら日常語になることがあります。
駄目は「得点にならない場所」から「よくない」へ。
布石は「序盤の石の配置」から「将来への準備」へ。
定石は囲碁の基本的な打ち方から「物事の基本的なやり方」へ。
一目置くは囲碁における力量差から「相手の実力を認める」へ。
囲碁そのものを知らなくても、その考え方は日本語の中に残っています。
カメちゃん
なるほど。じゃあ最初のケーキも、食べても「駄目」じゃない可能性が……。
ツル先生
それは普通の意味で駄目です。